作事組全国協議会活動開始に当たって
町家や民家は地域の気象、地形、資源、災害、総じて風土が育んだ。すなわち風土とそこに暮らす人々の共同作品であり、自然と人工が融合した第二の自然ともいうべきものである。したがって、その価値を再認識して、時代に取り残され、破却され、傷つきながらも残った町家や民家を保全・再生、ないしは新たに建てられるようにするのも、そこに暮らす人々の仕事である。
しかし、町家や民家が見直されたとはいっても、それらが失われる過程における枠組みが大きく変わったわけではなく、町家や民家を守りつくる仕事はさまざまな困難を伴う。困難な枠組みは法律・制度・経済、技術、慣習と全般にわたる。その中には技の再生・習得や、暮らしの見直しを通した町家や民家の再評価など、地域の努力で解決できることもあるが、地域だけではどうしようもないことも多い。
とりわけて、自然と対抗し、自然を拒否し、機器やシステムに頼る指向性が、町家や民家と真っ向から対立する建築基準法の克服が当協議会の重要課題である。
また、国交省における伝統構法の建築基準法への適合化の動き、大学研究室や伝統構法の普及活動団体による実大実験などの検証活動、建築基準法の性能規定を利用した適合化の試みなどは、わたしたちの活動を後押しするようにも見えるが、町家や民家に立つわたしたちから見れば、立ち位置が今までと変わっていないものも多い。
それらの動きは、町家や民家がつくられ守られてきたような形で法に適合化させ、改善改良を加えて次代に継承していく仕組みづくりの障害となりかねない。
そのような障害に対して、町家や民家に沿ったとらえ方の普及をはかることも当協議会の重要な仕事である。
そして、各地域の町家や民家のありようや活動内容の情報を交換することは、灯台もと暗しで、気づかなかった地域の町家や民家の新たな価値と、技や活動の手法の発見につながるはずである。
設立総会のパネルディスカッションや分科会における、熱意と共感の渦はそれぞれの地域での活動の課題が共通し、当協議会がそれらの課題の克服につながるのではという、期待感の表れであり、かたや、転換する時代の流れとわたしたちの活動の流れが合流するという、二重に時宜を得たものであるという確信をもった。作事組全国協議会が地域地域の活動という支流を集めて大河とする役割を担うことを、みなさんとの共感、協力、連携によって果たしていくことをここに期する。
作事組全国協議会 会長 梶山秀一郎
2009年2月